「素直」な孝行息子【猩々】

「素直」な孝行息子【猩々】

さてこの「乱みだれ」という能は「猩々乱」と表記することもあり、
「猩々」という能の舞の部分が
「乱」という海の上を漂っているような舞に変わります。

江戸時代以前は、前半と後半の二部構成になった能だったそうですが、
現代では後半だけの能になっています。

能楽師の家に生まれれば子供の頃、
大人になって初めても初心の頃に稽古する能なので
意味よりも丸暗記という場合がほとんどです。

それなので最近になって改めて台本を読んでいると
意味不明な不思議な部分に気が付きます。

現代の台本では
孝行息子が揚子江で酒を売る夢を見ます。
そこに真っ赤な顔の猩々が酒を求めてやってきます。
そして舞を舞い、家の繁栄を寿ぐという能です。

ここで
「ただいま返し与ふるなり」という奇妙な詞章があります。
丸暗記で覚えて何十年も知っているのに
改めて意味のわかる人の少ない
不思議な部分でした。

前場の台本が残っているとは表記があるものの
見たことも聞いたこともないようなものでした。

つい数年前、どうも猩々の前場らしいという
詞章を読む機会がありました。

幻の前場では、なんと猩々は酒壺を持って
海に帰ってしまうという内容です。

お酒を売るための酒の入れ物ごと
持って帰ってしまうわけです。

そして後場、どうやって返してくれるかというと
「汲めども尽きず」

つまり仕入れ0円の酒の湧き出る壺に
カスタマイズして返してくれるのです。

どうしてその気になったのか
それは「素直」

「御身心素直なるにより」

「素直」というのは実は何百年も
前からある古い日本語です。

なぜ前半が上演されなくなったかは謎のままですが、
めでたいという氣を素直に受けたいものですね。

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この記事を書いた人

森澤勇司(もりさわゆうじ)
能楽師小鼓方 1967年東京都生まれ。 テンプル大学在学中に見たこともない能楽界に入門し32歳で独立。 1500番以上の舞台に出演している。 43歳で脳梗塞で入院、 退院後、うつ状態克服のため心理学、脳科学を学ぶ。 復帰後は古典的な能楽公演を中心に活動している。 著書『ビジネス番「風姿花伝」の教え』 明治天皇生誕150年奉納能、 映画「失楽園」、大河ドラマ「秀吉」に 能楽師として出演。 2014年 重要無形文化財能楽保持者に選出される