忠誠心と裏切りの基準

昨日はお隣になった方が歯医者さんでした。歯がピカピカで綺麗だった反正天皇の話題が出ました。

そんなことを思っていたら今日の朝活はこの水歯別命(ミズハワケノミコト→後の反正天皇)のところを読むことになりました。

このエピソードは『古事記』『日本書紀』ともに大筋違わず掲載されていています。

イザホワケ皇子(後の履中天皇)が即位した年のエピソードです。弟に住吉仲皇子(スミノエナカツミコ)、瑞歯別皇子(ミズハワケノミコ→後の反正天皇)、

イザホワケ皇子が、婚約した黒媛に婚礼の日時を告げるために弟 住吉仲皇子を使者として遣わします。

使者として黒媛のところに行った住吉仲皇子は婚約者の履中天皇と偽って黒媛と関係を持ってしまいます。その時に鈴を落として帰っります。

翌日、イザホワケ皇子が黒媛のところにやってくると枕元で鈴の音がします。

黒媛は「昨日、あなたが置いていった鈴じゃないですか」と答えます。

ここでイザホワケ皇子は住吉仲皇子の裏切りを知ることになります。

そして弟 住吉仲皇子は罰せられることを恐れて兄 イザホワケ皇子が酒によって寝ている時に宮に火をつけてしまいます。

宮が燃え盛るなかイザホワケ皇子は側近に連れ出され救出されます。

そのあとは色々ありますが、少し話を飛ばします。

兄を心配した弟 瑞歯別皇子が探しあて訪ねてきます。

しかし弟 住吉仲皇子に裏切られたイザホワケ皇子は瑞歯別皇子も信用ができません。

そして住吉仲皇子を殺してきたら信じると伝えます。

ここで瑞歯別皇子は悩みます。「二人の兄どちらについたらよいのか??」そして出した答えは「道理のないものを亡し、道理のあるものに従えば私を責めるものはいないだろう」

そして住吉仲皇子の側近 刺領巾(サシヒレ)を買収します。
自分の絹の衣を刺領巾に与え出世を約束します。

刺領巾は矛を持ち、住吉仲皇子がトイレに入る時に刺し殺してしまいます。そして瑞歯別皇子に忠誠を誓います。

これを知った木兎宿禰は瑞歯別皇子に進言します。

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「刺領巾、人の為に己が君を殺せまつる。其れ我が為に大きなる功有りといえども、己が君にして、慈(うつくしび)無きこと甚だし。あに生くること得むや」とまうす。すなわち刺領巾を殺しつ。『日本書紀』
ーーーーーーー

古事記では刺領巾(サシヒレ)は曽婆訶里(ソバカリ)という人物になっています。

住吉仲皇子の暗殺後、ソバカリに大臣の位を授けるといって祝宴を開きます。

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「今日大臣と同じ盞の酒を飲まむ」とのりたまふ。共に飲む時に、面を隠す大鋺に其の進る酒を盛りき。是に王子まづ飲みたまひ、隼人後に飲む。故其の隼人飲む時に大鋺、面を覆ふ。しかして席の下に置け剣を取り出だし、其の隼人が頸を斬りたまふ。『古事記』より
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大臣の就任祝い㊗️
大きな杯が用意され皇子がまず飲み
人生最大の喜びを得たソバカリにすすめる

大きな杯が顔を覆い視界が遮られた時に隠していた剣で首を切ってしまう。

『日本書紀』には他にも同様の話が掲載されています。

自分に対して忠誠心を見せてリスクを犯して大きな功績を上げてくれた。

しかし!!

自分の主人を裏切ることは許せない!!

なんと無茶苦茶なと思うところもありますが、これが日本の支配層の価値基準です。

『日本書紀』『古事記』は王族を描いたものなので武士道精神的なものはほぼありません。

武士の世になってからこうした卑怯や嘘偽りを極端に嫌うようになりました。

とはいえ王族や政治家は武士ではありません。現在の武士に当たるのは自衛隊員、警察官、消防士のような方々です。

昨今「日本人」という大きな主語で語る人もいますが、

王族、貴族、武士、一般人の価値基準は別と思っていた方が君主国では生きやすそうです。

※画像はAIで生成しました。

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森澤勇司(もりさわゆうじ) 能楽師小鼓方 1967年東京都生まれ。 テンプル大学在学中に見たこともない能楽界に入門し32歳で独立。 2000番以上の舞台に出演している。 43歳で脳梗塞で入院、 退院後、うつ状態克服のため心理学、脳科学を学ぶ。 復帰後は古典的な能楽公演を中心に活動している。 著書『ビジネス番「風姿花伝」の教え』 明治天皇生誕150年奉納能、 映画「失楽園」、大河ドラマ「秀吉」に 能楽師として出演。 2014年 重要無形文化財能楽保持者に選出される

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曲目目次

あ行 か行 さ行 た行 な/は行 ま/や/ら行
(あ)
藍染川

葵上
阿漕
芦刈
安宅
安達原
敦盛
海士
海人
嵐山
蟻通
淡路

(い)
碇潜

生田敦盛
一角仙人
井筒
岩舟

(う)
鵜飼

浮舟
雨月
右近
歌占
善知鳥
采女

梅枝
雲林院
(え)
江口

江野島

烏帽子折
絵馬
(お)
老松

大江山
鸚鵡小町
大社

小塩
姨捨
大原御幸
小原御幸
女郎花
大蛇
(か)
杜若

景清
花月
柏崎
春日龍神
合浦
葛城
鉄輪
兼平
賀茂
通小町
邯鄲
咸陽宮
(き)
菊慈童

木曾

清経
金札
(く)
草薙
国栖

楠露
九世戸
熊坂
鞍馬天狗
車僧
呉服
黒塚

(け)
現在七面

源氏供養
玄象
絃上
月宮殿

(こ)
恋重荷

項羽
皇帝
高野物狂
小鍛治
小督
小袖曽我
胡蝶

(さ)
西行桜
逆矛

桜川
実盛
三笑

(し)
志賀
七騎落
自然居士
石橋
舎利
俊寛
春栄
俊成忠度
鍾馗
昭君
猩々
正尊
白鬚
代主

(す)
須磨源氏
隅田川
住吉詣

(せ)
西王母
誓願寺
善界
是界
是我意
関寺小町
殺生石
接待
蝉丸
禅師曽我
千手

(そ)
草子洗小町
草紙洗
卒都婆小町
(た)
大会
大典
大般若
大仏供養
大瓶猩々
第六天
當麻
高砂
竹雪
忠信
忠度
龍田
谷行
玉鬘
玉葛
玉井
田村

(ち)
竹生島
張良

(つ)
土蜘蛛
土車
経正
経政
鶴亀
(て)
定家
天鼓

(と)
東岸居士
道成寺
唐船
東方朔
東北
道明寺

木賊
知章

朝長
鳥追船
鳥追
(な)
仲光
難波
奈良詣
(に)
錦木
錦戸
(ぬ)

(ね)
寝覚
(の)
野宮
野守

(は)
白楽天
羽衣
半蔀
橋弁慶
芭蕉
鉢木
花筐
班女

(ひ)
飛雲
檜垣
雲雀山
氷室
百万

(ふ)
富士太鼓
二人静

藤戸
船橋
船弁慶
(ほ)
放下僧
放生川
仏原
(ま)
巻絹
枕慈童
枕慈童(カ
松風
松虫
松山鏡
満仲
(み)
三井寺

通盛
水無月祓
身延
三輪
(む)
六浦
室君
(め)
和布刈
(も)
望月
求塚
紅葉狩
盛久
(や)
屋島
八島
山姥
(ゆ)
夕顔
遊行柳
弓八幡
熊野
湯谷
(よ)
夜討曽我
楊貴妃
養老
吉野静
吉野天人
頼政
弱法師

(ら)

羅生門
(り)
龍虎
輪蔵
(ろ)
籠太鼓