ものの善悪はどう決まるのか【氷室】

朝活での『源氏物語』完読会も順調に進み只今「蜻蛉」に入りました。残すところあと一帖「夢浮橋」のみです。

「蜻蛉」の中で宮中に働く女性たちが氷を割ったり手に持ったりしている場面があります。

小宰相「なかなか、もののあつかひに、いと苦しげなり。たださながら見給へかし」

夏の暑い日に超貴重品の氷がやってきますが、後始末など大変だから帰って暑苦しそうだと言われています。

心づよく割りて、手ごとに持たり。頭にうちおき、胸にさし当てなど、さまあしうする人もあるべし

能「氷室」では神事を行うための献上品ですが、宮中の女性たちは頭に乗せたり胸に当てたりお行儀の悪いことをする人もいたと描写されています。

異人は紙に包みて、御前にもかくてまいらせたれど、いとうつくしき御手をさしやり給ひて、のごはせ給ふ。
女一宮「いな、もたらじ。雫むつかし」

女一宮は雫が気持ち悪いと嫌がったりもしています。それを見て薫は喜んでいる場面です。

こんなお話を読んでいたらシンクロなのか来月の稽古能の曲目が、なんと「氷室」と連絡が入りました。

能「氷室」は亀山天皇(元寇があった時の天皇)の臣下が丹後国、九世戸に行きその帰りに丹波の氷室山に立ち寄ったところから物語が始まります。

旧六月、夏の暑い時に氷がある。地元の老人がその氷の言われを語ります。これ自体が天皇の威光であり特別な献上品です。仙界には、紫雪、紅雪という薬の雪がある。それを言われに氷を献上することが始まったと語られます。

後半では天女が舞い、氷室の神が登場して献上する氷の守護をするというあらすじです。

神の力により特別なものという神事もありますが、『源氏物語』の女性たちのように遊んだり気持ち悪がったりという描写もある。

いつの世もキャーキャーふざけてしまう感覚は変わらないですね。昨今はカフェでも「氷なし」とオーダーする人も多いです。

世阿弥の語る善悪不二。

物そのものに善悪が備わっているのではなく、受け取る人が欲しければ善、欲しくなければ悪がきまる。

どんなに珍しい貴重品でも欲しいかどうかで価値は決まりますね。能楽も文化の集大成として価値あるものとは思っています。それを押し付けてはいけないですね。見たい、やって見たいと思っていただけるような情報発信を続けていきたいと思いました。

 

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森澤勇司(もりさわゆうじ) 能楽師小鼓方 1967年東京都生まれ。 テンプル大学在学中に見たこともない能楽界に入門し32歳で独立。 2000番以上の舞台に出演している。 43歳で脳梗塞で入院、 退院後、うつ状態克服のため心理学、脳科学を学ぶ。 復帰後は古典的な能楽公演を中心に活動している。 著書『ビジネス番「風姿花伝」の教え』 明治天皇生誕150年奉納能、 映画「失楽園」、大河ドラマ「秀吉」に 能楽師として出演。 2014年 重要無形文化財能楽保持者に選出される

曲目目次

あ行 か行 さ行 た行 な/は行 ま/や/ら行
(あ)
藍染川

葵上
阿漕
芦刈
安宅
安達原
敦盛
海士
海人
嵐山
蟻通
淡路

(い)
碇潜

生田敦盛
一角仙人
井筒
岩舟

(う)
鵜飼

浮舟
雨月
右近
歌占
善知鳥
采女

梅枝
雲林院
(え)
江口

江野島

烏帽子折
絵馬
(お)
老松

大江山
鸚鵡小町
大社

小塩
姨捨
大原御幸
小原御幸
女郎花
大蛇
(か)
杜若

景清
花月
柏崎
春日龍神
合浦
葛城
鉄輪
兼平
賀茂
通小町
邯鄲
咸陽宮
(き)
菊慈童

木曾

清経
金札
(く)
草薙
国栖

楠露
九世戸
熊坂
鞍馬天狗
車僧
呉服
黒塚

(け)
現在七面

源氏供養
玄象
絃上
月宮殿

(こ)
恋重荷

項羽
皇帝
高野物狂
小鍛治
小督
小袖曽我
胡蝶

(さ)
西行桜
逆矛

桜川
実盛
三笑

(し)
志賀
七騎落
自然居士
石橋
舎利
俊寛
春栄
俊成忠度
鍾馗
昭君
猩々
正尊
白鬚
代主

(す)
須磨源氏
隅田川
住吉詣

(せ)
西王母
誓願寺
善界
是界
是我意
関寺小町
殺生石
接待
蝉丸
禅師曽我
千手

(そ)
草子洗小町
草紙洗
卒都婆小町
(た)
大会
大典
大般若
大仏供養
大瓶猩々
第六天
當麻
高砂
竹雪
忠信
忠度
龍田
谷行
玉鬘
玉葛
玉井
田村

(ち)
竹生島
張良

(つ)
土蜘蛛
土車
経正
経政
鶴亀
(て)
定家
天鼓

(と)
東岸居士
道成寺
唐船
東方朔
東北
道明寺

木賊
知章

朝長
鳥追船
鳥追
(な)
仲光
難波
奈良詣
(に)
錦木
錦戸
(ぬ)

(ね)
寝覚
(の)
野宮
野守

(は)
白楽天
羽衣
半蔀
橋弁慶
芭蕉
鉢木
花筐
班女

(ひ)
飛雲
檜垣
雲雀山
氷室
百万

(ふ)
富士太鼓
二人静

藤戸
船橋
船弁慶
(ほ)
放下僧
放生川
仏原
(ま)
巻絹
枕慈童
枕慈童(カ
松風
松虫
松山鏡
満仲
(み)
三井寺

通盛
水無月祓
身延
三輪
(む)
六浦
室君
(め)
和布刈
(も)
望月
求塚
紅葉狩
盛久
(や)
屋島
八島
山姥
(ゆ)
夕顔
遊行柳
弓八幡
熊野
湯谷
(よ)
夜討曽我
楊貴妃
養老
吉野静
吉野天人
頼政
弱法師

(ら)

羅生門
(り)
龍虎
輪蔵
(ろ)
籠太鼓