20250610坂井同門会「班女」
6月10日「班女」の本番です。
能「班女」は漢詩の世界観を和歌で描いた秋の名作です。
少し季節先取りです。
七夕の日、客を取らなくなった遊女 花子。花子さんのルーツです。
とある客と取り交わした扇を大切に持ってます。
働かないので追い出される花子。
そこに約束通り迎えに来る吉田少将が登場します。
能では吉田少将と花子が再開するまでが描かれます。
この花子さん、平安から江戸時代にけっこう有名だったようです。
再会にまつわる出来事は狂言「花子」、能「鉄輪」「隅田川」などの作品になってます。
この花子さんの子は梅若丸といい隅田川の近くで亡くなった伝説から木母寺ができています。
花子さんはこの菩提を弔うため出家し妙亀尼となります。
池の上に梅若丸の影を見て溺れてしまったと伝わる悲劇の女性です。
江戸時代のガイドブック『江戸名所図会』には下記のような記載があります。
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梅若丸七歳のとし比叡の月林寺をのがれ出でて、花絡北白川の家に帰らんと吟(さまよ)ふて大津の浦に至りけるに、奥陸の藤太いへる人あきびとのために、すかしあざむかれて、はるばるとこの隅田川に来ぬることは本文に詳らかなり。ちなみにいふ、人買ひ藤太は陸奥南部の産なりとて、いまも南部の人はその怨霊を恐れて木母寺に至らざること、矢口の新田明神へ江戸氏の人はばかりて詣でざるがごとし。
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後日談、能「隅田川」の伝説は976年、その前年に12、3歳の梅若丸が産まれる前の出来事がこの「班女」に描かれています。
班女ほ中国の班婕妤(はんしょうよ)の伝説からついた花子のあだ名です。
班婕妤は皇帝に寵愛を受けていましたが、趙飛燕姉妹に気持ちがかわったため身を退きます。
それが夏は盛んに手元におきながら秋になると見向きもされなくなる扇(団扇とも)のような存在として班女と言われました。
「月を隠して懐に持ちたるあふぎ(扇、逢う義)」という言葉から扇は梅若丸のことだという説もあります。
「楚王の台の上には秋の琴の声」は『源氏物語』の中にも引用されています。
三島由紀夫 著『近代能楽集』の中にもこの「班女」を元にした戯曲が収められています。
伝説、文学、漢詩、和歌、暦、さまざまなものが詰め込まれた作品です。
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