2025年6月11日「第六天」
本日は国立能楽堂にて能「第六天」を勤めます。
あまり上演されない能で笛、小鼓、大鼓は初演、太鼓は2回目という組合せでの演能です。
短い曲ながら音楽的にも変化があって面白い曲です。
そんな日の朝活では『日本書紀』天照大神の誕生の場面でした。
「第六天」の台本にも語られているところです。
平安時代から江戸時代、戦前の教科書も含め多くは『日本書紀』が土台になっています。
戦後に流行っている『古事記』とのおおきな違いは、伊弉諾尊、伊弉冉尊は共に国産み、神産みをしているところです。
それなので黄泉の国にも行きません。『古事記』のようにシングルファザーではなく両親揃っての出生になっています。
そして、日神、月神、蛭子、素戔嗚という4兄弟になっているところが大きく違います。
戦前の教科書も『日本書紀』が土台になっています。
昨今は書いてないことまでなんでも『古事記』にしてしまう風潮があります。流行りですね。
本日の「第六天」は現代から見ると不思議な話お話です。
解脱上人というお坊さんが伊勢の大神宮に参拝します。
そこに仏教を滅ぼそうとする大六天が現れます。
解脱上人の祈りにより素戔嗚尊が現れ大六天を追い払う。
えっなんで神宮に素戔嗚尊ということですが、二見ヶ浦には蘇民将来のお札をかける習慣もあり間接的な信仰は深いものを感じます。
この辺りは『風土記』をはじめ中世の信仰に関わるのでここでは触れるだけにして4兄弟に戻ります。
この大六天に大神宮にまつわる神々が語られます。
日神、月神、蛭子、素戔嗚です。
能は室町時代に作られた作品が多いので能、狂言ともに日神は4兄弟が基本です。
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『大六天』
それ倭姫の命。七百餘歳に至るまで。宮居を尋ねおはします。
然れば当国、二見の浦に上がり。裳裾の穢れ給ひしを。この川にて洗ひしにより。御裳濯川と申すなり。
そもそも当社は垂仁の御宇に始めて、下つ岩根に宮柱太敷立てて。⭕️日神、⭕️月神を、崇め申すなり。⭕️蛭子、⭕️素戔嗚は、枝をつらぬる御神。高天原の昔より。
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戦前の教科書も伊弉諾尊、伊弉冉尊から日の神が生まれます。
左目からは生まれません。
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昭和16年『高等科国史』
伊弉諾尊、伊弉冉尊 二柱の神は、天つ神の仰せを承けて、天の浮橋に立たせられ、先ず大八洲を生み給い、次いで山川草木・神々を生み給うた。
かくて、天の下しろしめす神として生まれ給うたのが、天照大神であらせられる。
御光うるわしく天地を照らし給い、極みなく尊い神にまします天照大神は、先ず高天原をしろしめして、八百万の神々をいるくしみ給い、五穀の栽培、機織りの法をお授けになり、又、常に大御心を大八洲の上に注がせられた。
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元になっている『日本書紀』の読み下しは下記です。
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『日本書紀』
吾、已に大八洲国および山川草木を生めり。何ぞ天下を主者を生まざらむ」とのたまふ。
是に、共に⭕️日の神を生みまつります。大日孁貴と号す。大日孁貴、此をば於保比咩武智(おおひるめのむち)と云ふ。
一書に云はく、天照大神といふ。一書に云はく、天照大日孁尊といふ。
此の子、光華明彩しくして、六合の内に照り徹る。
故、二の神、喜びて日はく、「吾が息、多ありといえども、未だ若比霊に異しき児有らず。久しく比の国に配めまつるべからず。自づか
ら当に早に天に送りて、授くるに天上の事を以てすべし」とのたまふ。
この時に、天地、相去ること未だ遠からず。故、天柱を以て、天上に拳ぐ。
次に⭕️月の神を生みまつります。一書に云く月弓尊、月夜見尊、月読尊といふ。その光、彩しきこと、日につげり。以て日に並べて治すべし。故、また天におくりまつる。
次に⭕️蛭児を生む。已に三歳になるまで、脚、猶しし立たず。故、天磐櫲樟船に載せて、風の順に放ち棄つ。
次に⭕️素戔嗚尊を生みまつります。一書に云く、神素戔嗚尊、速素戔嗚尊といふ。
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文化を知る上でも『日本書紀』は重要な書物です。
ちなみに『日本書紀』は「日本」と書いてあるので現在の日本国をイメージしてしまいますが「日本」=ヤマト王権です。日本の国土全域のことではありません。
「大日本、 日本、これをば耶麻騰(やまと)と云う。下皆これに効(なら)へ」と注意書きが記載されています。
以下全て「日本」という記載は「やまと」とよむ。
昨今ではこれをすり替えて日本国のことをヤマトといっているひともいますが、『日本書紀』の日本(やまと)は範囲が違うので注意が必要です。
表記が同じで、読み方が違い、意味が違う
ややこしいですね。
「第六天」も音楽的にややこしい部分はありますが、朝活で『日本書紀』『祝詞』を読んでいたおかげで言葉には馴染みがあり助かりました。
ご都合あうかた能楽堂でお待ちしています😃
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