江戸からの幕府は消えて全解雇、能楽師達は自宅謹慎
目次
舞台のない今だから読んで見た一冊
江戸から東京に変わった明治5年を背景にした時代小説です。このころ幕府が解体されお抱えだった能楽師は全員失業しました。切腹の次に思い自宅謹慎などもあったようです。コロナ禍のいま自粛の中、たまたまであった「名残の花」を読んで見ました。
仕事のなくなった奉行と若い修行中の能楽師周辺の人間模様を描いた物語です。江戸から明治に変わった頃の梅若家の話題の多く登場します。
小鼓は話題になりやすい
演能の入場料が二人で三分、「米一斗あまりも買えてしまうじゃないか」といっている場面がありました。当時の米が高いことを加味するといまの5万円位したのかもしれません。
現在でも丸1日している最長の催し「式能」でも1万円しませんからだいぶいいお値段だったと思います。
小説の中ですが、不出来な話が多いところがなんともリアルな感じです。鼓に関しては拍子を外した、音が悪い、気の早い小鼓、下手どころではない、などの記述があります。実際の舞台でこのような悪いモデルにはなりたくないものです。
実際に小鼓の音は苦労するときが多いですね。私自身は38歳から5年くらい悩まされました。江戸初期から小鼓の病と称するものに音が鳴らないという記載があります。デリケートと言ってしまえばそれまでですが、稽古と準備は念入りすることが大切です。
一部、実在の人物名なので少し時代の下った雑誌「能楽」の記述をあわせて読むと情景がありありと浮かんできます。実際にある流儀のどうしようもなく間の悪い小鼓方が登場します。
鵺を勤めている最中に調緒が切れるなど、、実際に舞台では2回見たことがあります。小鼓はぎゅうぎゅう閉めないのでよっぽど使い込んでいたのでしょうか。あまりお目にかからない事故です。そんなハプニングもおおいので「そんなことあるのか?」という疑問も湧いて面白いと思います。
うっすら感じるパートナーシップの違い
直接のストーリーとは関係ないのですが、作品全体から感じる明治の男女間というのがやっぱり今とはだいぶ違う感じがします。船宿に娘を売ったとか。出逢いと別れもなにか最初から想定されているような感じがします。実際に私のイメージする江戸時代はテレビの中の江戸時代です。言葉遣いもわかりません。この作品の中の能楽師の会話がべらんめえ調なのも面白いところでした。
有言実行の武将
最後の章、で語られる「実盛」は有言実行の代表のような武将です。この作品には73歳というところまで能の曲の裏側もしらべてつくられているところも興味深いところです。
実盛は自分の最後を迎える際は華々しく戦場で散りたいと戦前話していたそうです。実際の戦で立派な鎧を着けているのに引き連れている軍勢もなく不思議な武将がやってくる。
討ち取った後の首実検でも誰だかわからない。その首を洗ってみると髪を染めていた墨はながれて白髪の実盛だとわかります。まわりにいた武将も立派な最期だと涙を流したと語り継がれています。
生前の言葉を実際に実行した有言実行の武将です。youtubeに最後の仕舞いの部分があったのでリンクをつけておきます。仕舞いは能の動きのある部分を謡と舞で演じる演技の仕方です。「名残の花」をよんだらこの実盛の動画も味わってみてください。
理想の能楽生活を楽しんでいきましょう!!
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