【問】ゆっくり手を動かすにはどうすればよいでしょうか?

【問】ゆっくり手を動かすにはどうすればよいでしょうか?

ゆっくりした曲でもどうしてもサッと手が下りてしまいます。そのあと間が保てなくなり早くなってしまいます。ゆったりと手を動かすにはどうすれば良いでしょうか。

【答】言葉、動き、気分の3つの要素が必要です。

さてゆっくりしたものはあらが出やすく、スローモーションのようにしようとするとベタベタとしてくるものです。ご質問の件には改善案に3つの要素があります。一つ一つはさほど時間のかかるものではないので試してみてください。まずは30分確保して読み進めていきましょう。

言葉の要素

さて「どうしてもサッと手が下りてしまう」という事への「言葉」の改善案です。ものすごく細かいことになりますがこれは稽古以外にも広く応用できます。動きをさきにしたいところですが単なる心がけでは同じ事です。ですから自分を動かしている「言葉」について始めに触れることにします。

「どうしても」

何気なく使う言葉ですし日常深く考えずに使っている言葉のひとつです。しかしこの「どうしても」は根深くやっかいです。「どうしても」なってしまうものは直しようが無いからです。「どうしても」なる訳ですから、、、「なにをやっても」「気をつけているのに」も同じです。「どうしても」なるものは直せないとしっかり覚えておきましょう。

ではどうすれば良いかと言えば「こともある」にまず言い換えておきましょう。

「サッと手が下りてしまう”事もある”」

人に動かされていたり、バネがついていたりして自分では制御できないなら「どうしても」です。いま右手を動かしてみて速さが変えられるのなら「サッと下りてしまう事もある」まずこれを口に出して3回ほど行ってみましょう。

これで「どうしても」の呪縛から解放されます。

動きの要素

次に動きの要素です。「サッと手が下りてしまう」大きな原因は始めの動きが早いことにあります。陸上選手なら大歓迎の初動の速さです。肩1,2,3,4膝まで動かしてみましょう。このときに手が下りるのが早い方は「1」で半分以上動いてしまいます。速さを決めるのは初動です。スタートのスピードであとはそのままでいいわけです。はじめをごく丁寧にしていきます。小鼓の面から手が離れる5cmくらいを特に気をつけて動かしていきます。

実際打つときには、打ちながら気をつけるのは事故の元です。右手を動かすことだけに集中して動きをつくっていきます。10回もすれば初動のスピードをコントロールできると思います。自由に速さを変えて動かしてみましょう。

そして、手を止めて、手を動かすイメージだけを確認します。このときは手はももの上でも組んでもキーボードの上でもかまいません。手を動かすイメージだけを繰り返します。これが出来れば電車に乗っていても歩いていてもどこでもイメージトレーニングが出来ます。ただし車の運転中はやめましょう。

気分の要素

上記の「言葉」と「動き」がすんでここまでお疲れ様でした。最後の気分はゆっくり手を動かしたいわけですから「ゆっくりとした気分」を味わってください。できれば「ゆっくり」という速度のものさしではなく「ゆったり」した気分の方がつくりやすいです。これを読んでいても息をゆっくり吐いて「ゆったり」した気分になる。

セカセカした気分でゆったり手を動かすのは、なかなかやりにくいことです。常日頃から10秒くらい「ゆったり」を味わえるように練習してみましょう。気分転換にも良い効果があります。

まとめ

この「ゆっくり」というのは大きな課題です。ゆったりしてノリが良いという理想のイメージを持つことも大切です。理想が無ければ何事も近づきようがありません。これは舞台で感じ取ってください。

技術的なことは「動き」の練習です。

それよりも「言葉」と「気分」は技術よりも習慣です。個人的には「言葉」と「気分」が習慣化されることが重要と感じています。要素としてわけたので順番のようになりましたが同時に存在しているものです。

しかし、料理の下ごしらえのようにひとつずつ丁寧につくることによって完成度が高まります。

理想の能楽生活を楽しんでいきましょう。

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森澤勇司(もりさわゆうじ) 能楽師小鼓方 1967年東京都生まれ。 テンプル大学在学中に見たこともない能楽界に入門し32歳で独立。 2000番以上の舞台に出演している。 43歳で脳梗塞で入院、 退院後、うつ状態克服のため心理学、脳科学を学ぶ。 復帰後は古典的な能楽公演を中心に活動している。 著書『ビジネス番「風姿花伝」の教え』 明治天皇生誕150年奉納能、 映画「失楽園」、大河ドラマ「秀吉」に 能楽師として出演。 2014年 重要無形文化財能楽保持者に選出される

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曲目目次

あ行 か行 さ行 た行 な/は行 ま/や/ら行
(あ)
藍染川

葵上
阿漕
芦刈
安宅
安達原
敦盛
海士
海人
嵐山
蟻通
淡路

(い)
碇潜

生田敦盛
一角仙人
井筒
岩舟

(う)
鵜飼

浮舟
雨月
右近
歌占
善知鳥
采女

梅枝
雲林院
(え)
江口

江野島

烏帽子折
絵馬
(お)
老松

大江山
鸚鵡小町
大社

小塩
姨捨
大原御幸
小原御幸
女郎花
大蛇
(か)
杜若

景清
花月
柏崎
春日龍神
合浦
葛城
鉄輪
兼平
賀茂
通小町
邯鄲
咸陽宮
(き)
菊慈童

木曾

清経
金札
(く)
草薙
国栖

楠露
九世戸
熊坂
鞍馬天狗
車僧
呉服
黒塚

(け)
現在七面

源氏供養
玄象
絃上
月宮殿

(こ)
恋重荷

項羽
皇帝
高野物狂
小鍛治
小督
小袖曽我
胡蝶

(さ)
西行桜
逆矛

桜川
実盛
三笑

(し)
志賀
七騎落
自然居士
石橋
舎利
俊寛
春栄
俊成忠度
鍾馗
昭君
猩々
正尊
白鬚
代主

(す)
須磨源氏
隅田川
住吉詣

(せ)
西王母
誓願寺
善界
是界
是我意
関寺小町
殺生石
接待
蝉丸
禅師曽我
千手

(そ)
草子洗小町
草紙洗
卒都婆小町
(た)
大会
大典
大般若
大仏供養
大瓶猩々
第六天
當麻
高砂
竹雪
忠信
忠度
龍田
谷行
玉鬘
玉葛
玉井
田村

(ち)
竹生島
張良

(つ)
土蜘蛛
土車
経正
経政
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(て)
定家
天鼓

(と)
東岸居士
道成寺
唐船
東方朔
東北
道明寺

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鳥追
(な)
仲光
難波
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(に)
錦木
錦戸
(ぬ)

(ね)
寝覚
(の)
野宮
野守

(は)
白楽天
羽衣
半蔀
橋弁慶
芭蕉
鉢木
花筐
班女

(ひ)
飛雲
檜垣
雲雀山
氷室
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(ふ)
富士太鼓
二人静

藤戸
船橋
船弁慶
(ほ)
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放生川
仏原
(ま)
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枕慈童
枕慈童(カ
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松虫
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満仲
(み)
三井寺

通盛
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三輪
(む)
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室君
(め)
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(も)
望月
求塚
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盛久
(や)
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八島
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(ゆ)
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熊野
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(よ)
夜討曽我
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養老
吉野静
吉野天人
頼政
弱法師

(ら)

羅生門
(り)
龍虎
輪蔵
(ろ)
籠太鼓