宇宙人の心理学


日本人は感情を表現しないと当たり前のように言われます。

能の台本ではセリフの冒頭に「悲しい」「嬉しい」がはじめに来ることが結構多いです。そんな一つの例として6月15日に上演される「羽衣」を例に宇宙人と地球人の交渉を深掘りしてみようと思います。

まず、漁師が登場、この日は凪で三保の松原に戻ってきます。

空から音楽が聞こえ、よい香りが漂ってきます。これは特別なことがある!!

そう思ってみると松に衣がかかっています。色も香りも普段見るものではありません。これを持ち帰って長老たちにも見せ家宝にしようと思い持ち帰ろうとします。

そこに現れる天人
「それは私のものです。元のところに戻してください」

漁師「拾ったものだから持って帰りますよ」
→漁師は自然界のものをとっているので罪の意識はありません。

天人「⭕️悲しやな、羽衣なくては飛行の道も絶え。天上に帰らんことも叶うまじ。さりとては返したび給へ」

漁師はそんなに大切なものならなおさら返せないと立ち去ろうとします。

天人は悲しみ弱ってきた「天人の五衰」が現れます。
五衰→①衣服が垢で汚れる②頭上の華鬘がしおれる③身体に臭気が漂④脇の下に汗が流れる⑤不満を持つ

漁師は天人の弱ってきた姿を見て羽衣を返そうと思い始めます。

天人「⭕️あら嬉しや、此方へ賜りそうらへ」

ただでは返したく無い漁師は交換条件を出します。噂で聞いている天人の舞楽をここで舞ってくれたら返しましょう。

天人「⭕️嬉しや、さては天上に帰らん事を得たり。この⭕️喜びにとてもさらば。人間の御遊の形見の舞。月宮を廻らす舞曲あり。」

人間→人間界のこと、地球に遊びにきた思い出に舞って見せましょう。

ここから交渉が始まります。

天人「世の憂き人に伝ふべし。さりながら衣なくては叶ふまじ。⭕️さりとては先ず返し給へ」

ここで漁師は天人を疑います。

漁師「いや、この衣を返しなば、舞曲をなさでそのままに。天にや上がり給ふべき」

返したら舞をまわずそのまま帰ってしまうでしょう。峰不二子ならそのまま帰ってしまいそうですが、、、

天人はちょっと違いました。

天人「いや疑いは人間にあり。天に偽りなきものを」

漁師「⭕️あら恥ずかしや、さらばとて、羽衣を返し与ふれば」

脳梗塞のあと講演会などで「与えるのが先」のような話を聞いていたので「そうそう、与えるのが先だよね〜」

と思っていたのですが、、、

しばらくしてイヤ違う!!

この時は舞台で赤面、顔が熱くなるのを感じました。

古典は手渡すことも与えると表現します。

ここの与えるは漁師が天人に羽衣をあげたのではなく、もともと天人のものです。持ち主に返したのです。

与えるどうこうではなく人のものは持ち主に返すものです。

漁師が与えるという立場になってしまった自分は地球人的だと感じました。

天人は「悲しい」「嬉しい」というアイメッセージで語り変えているのに地球人漁師は「恥ずかしい」と思うまで感情を語りません。

霊的なレベルの高い天人は、感情豊かなのか、感情語をつかって地球人を思う方向に導いているのか、、ここは解釈が分かれるところです。

素直な人は素直に見るほうが多いようです。

この後、羽衣を返してもらった天人は約束通り舞楽を漁師にみせ宝を国土に降らし帰っていきます。

天人が帰る経路は、浮島から愛鷹山、富士山の右旋回をすると北西の方角になります。

『易経』で北西は「天」

能「羽衣」には現代の交渉の心理学や『易経』『神話』の世界が織り込まれています。

「思った通りに周りが動いてくれない」そう感じた時は宇宙人の交渉術、「嬉しい」「悲しい」を先ず伝えてみてもいいかもしれないですね。

※画像はAIで生成しました。

 

 

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森澤勇司(もりさわゆうじ) 能楽師小鼓方 1967年東京都生まれ。 テンプル大学在学中に見たこともない能楽界に入門し32歳で独立。 2000番以上の舞台に出演している。 43歳で脳梗塞で入院、 退院後、うつ状態克服のため心理学、脳科学を学ぶ。 復帰後は古典的な能楽公演を中心に活動している。 著書『ビジネス番「風姿花伝」の教え』 明治天皇生誕150年奉納能、 映画「失楽園」、大河ドラマ「秀吉」に 能楽師として出演。 2014年 重要無形文化財能楽保持者に選出される

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曲目目次

あ行 か行 さ行 た行 な/は行 ま/や/ら行
(あ)
藍染川

葵上
阿漕
芦刈
安宅
安達原
敦盛
海士
海人
嵐山
蟻通
淡路

(い)
碇潜

生田敦盛
一角仙人
井筒
岩舟

(う)
鵜飼

浮舟
雨月
右近
歌占
善知鳥
采女

梅枝
雲林院
(え)
江口

江野島

烏帽子折
絵馬
(お)
老松

大江山
鸚鵡小町
大社

小塩
姨捨
大原御幸
小原御幸
女郎花
大蛇
(か)
杜若

景清
花月
柏崎
春日龍神
合浦
葛城
鉄輪
兼平
賀茂
通小町
邯鄲
咸陽宮
(き)
菊慈童

木曾

清経
金札
(く)
草薙
国栖

楠露
九世戸
熊坂
鞍馬天狗
車僧
呉服
黒塚

(け)
現在七面

源氏供養
玄象
絃上
月宮殿

(こ)
恋重荷

項羽
皇帝
高野物狂
小鍛治
小督
小袖曽我
胡蝶

(さ)
西行桜
逆矛

桜川
実盛
三笑

(し)
志賀
七騎落
自然居士
石橋
舎利
俊寛
春栄
俊成忠度
鍾馗
昭君
猩々
正尊
白鬚
代主

(す)
須磨源氏
隅田川
住吉詣

(せ)
西王母
誓願寺
善界
是界
是我意
関寺小町
殺生石
接待
蝉丸
禅師曽我
千手

(そ)
草子洗小町
草紙洗
卒都婆小町
(た)
大会
大典
大般若
大仏供養
大瓶猩々
第六天
當麻
高砂
竹雪
忠信
忠度
龍田
谷行
玉鬘
玉葛
玉井
田村

(ち)
竹生島
張良

(つ)
土蜘蛛
土車
経正
経政
鶴亀
(て)
定家
天鼓

(と)
東岸居士
道成寺
唐船
東方朔
東北
道明寺

木賊
知章

朝長
鳥追船
鳥追
(な)
仲光
難波
奈良詣
(に)
錦木
錦戸
(ぬ)

(ね)
寝覚
(の)
野宮
野守

(は)
白楽天
羽衣
半蔀
橋弁慶
芭蕉
鉢木
花筐
班女

(ひ)
飛雲
檜垣
雲雀山
氷室
百万

(ふ)
富士太鼓
二人静

藤戸
船橋
船弁慶
(ほ)
放下僧
放生川
仏原
(ま)
巻絹
枕慈童
枕慈童(カ
松風
松虫
松山鏡
満仲
(み)
三井寺

通盛
水無月祓
身延
三輪
(む)
六浦
室君
(め)
和布刈
(も)
望月
求塚
紅葉狩
盛久
(や)
屋島
八島
山姥
(ゆ)
夕顔
遊行柳
弓八幡
熊野
湯谷
(よ)
夜討曽我
楊貴妃
養老
吉野静
吉野天人
頼政
弱法師

(ら)

羅生門
(り)
龍虎
輪蔵
(ろ)
籠太鼓