日頃から積み重ねている感覚を言葉にすれば「なんとのう ええ」

日頃から積み重ねている感覚を言葉にすれば「なんとのう ええ」

先人の貴重な体験が詰まった一冊

昭和から平成を生きた大先輩 片山慶次郎先生の貴重な体験の詰まった一冊です。冒頭4行目に国立能楽堂の「楊貴妃」で倒れた話が冒頭4行目にありました。私も喜多能楽堂で舞台途中に搬送されたのが「楊貴妃」上演中でした。これをみてここのところ気になっていた理由もハッキリして一気に再読しました。

タイトルにもなっている感覚的な部分を感じられる

「なんとのう ええ」というタイトルにある「なんとのう」という感覚はピリッとした空気感で姿勢が正されます。研ぎ澄まされた刃物のようなスッと切れるような感覚なのか、読む人によっても、その人のおかれている立場によっても受け取り方は変わってきます。また「なんとのう」という感覚は人によっては全く感じられないかもしれません。

能楽堂で無くても、日常の中で「なんとなくいい気分」「なんとなく変な感じ」というような「なんとなく」の感覚を大事に生きることは人生を丁寧に生きることに通じると感じました。淡い感覚、なんとなくは実は非常にだいじな感覚です。なんとなくいいが積み重なっていい人生ができあがっていくように感じました。

楽屋では聞く事が出来ない曲への想いが綴られている

具体的な曲への想いや演じ方についての先人からの教えも具体的に語られています。10年ほど前に読んだときには私自身が経験していない話が多くそんなものかと思っていました。

「三輪 白式神神楽」のつくられた経緯、「卒都婆小町」のイロエの解釈なども実際に自分が勤めるときにどんな感じなのか非常に勉強になりました。

能を伝承した人の意気込みは現代人の仕事に対する熱にも通じている

能楽の記述は、能の知識が無いと読み進めるのは大変かもしれません。知らない世界をみる社会科見学をするような好奇心のある方にはリアルな能の世界を感じられると思います。そしてひとつの道を進んできた方の「熱」は自分が進む道を模索している人にも通じると思います。

私自身、10年前に読んだときは、ピンとくるところはなく素通りしてしまいました。それでも何かうっすらと記憶に残るものです。わからなくても一度読んでおくにはおすすめです。すぐになにか役立つテクニックは無いかもしれませんが、年月がたつごとに熟成されていく大切な心の姿勢が綴られています。

日常、「なんとなく」とはなにか微細な感覚を大切にしたい方には是非読んでいただきたい一冊です。

感想いただけると嬉しいです
The following two tabs change content below.
森澤勇司(もりさわゆうじ) 能楽師小鼓方 1967年東京都生まれ。 テンプル大学在学中に見たこともない能楽界に入門し32歳で独立。 2000番以上の舞台に出演している。 43歳で脳梗塞で入院、 退院後、うつ状態克服のため心理学、脳科学を学ぶ。 復帰後は古典的な能楽公演を中心に活動している。 著書『ビジネス番「風姿花伝」の教え』 明治天皇生誕150年奉納能、 映画「失楽園」、大河ドラマ「秀吉」に 能楽師として出演。 2014年 重要無形文化財能楽保持者に選出される

最新記事 by 森澤勇司 (全て見る)

曲目目次

あ行 か行 さ行 た行 な/は行 ま/や/ら行
(あ)
藍染川

葵上
阿漕
芦刈
安宅
安達原
敦盛
海士
海人
嵐山
蟻通
淡路

(い)
碇潜

生田敦盛
一角仙人
井筒
岩舟

(う)
鵜飼

浮舟
雨月
右近
歌占
善知鳥
采女

梅枝
雲林院
(え)
江口

江野島

烏帽子折
絵馬
(お)
老松

大江山
鸚鵡小町
大社

小塩
姨捨
大原御幸
小原御幸
女郎花
大蛇
(か)
杜若

景清
花月
柏崎
春日龍神
合浦
葛城
鉄輪
兼平
賀茂
通小町
邯鄲
咸陽宮
(き)
菊慈童

木曾

清経
金札
(く)
草薙
国栖

楠露
九世戸
熊坂
鞍馬天狗
車僧
呉服
黒塚

(け)
現在七面

源氏供養
玄象
絃上
月宮殿

(こ)
恋重荷

項羽
皇帝
高野物狂
小鍛治
小督
小袖曽我
胡蝶

(さ)
西行桜
逆矛

桜川
実盛
三笑

(し)
志賀
七騎落
自然居士
石橋
舎利
俊寛
春栄
俊成忠度
鍾馗
昭君
猩々
正尊
白鬚
代主

(す)
須磨源氏
隅田川
住吉詣

(せ)
西王母
誓願寺
善界
是界
是我意
関寺小町
殺生石
接待
蝉丸
禅師曽我
千手

(そ)
草子洗小町
草紙洗
卒都婆小町
(た)
大会
大典
大般若
大仏供養
大瓶猩々
第六天
當麻
高砂
竹雪
忠信
忠度
龍田
谷行
玉鬘
玉葛
玉井
田村

(ち)
竹生島
張良

(つ)
土蜘蛛
土車
経正
経政
鶴亀
(て)
定家
天鼓

(と)
東岸居士
道成寺
唐船
東方朔
東北
道明寺

木賊
知章

朝長
鳥追船
鳥追
(な)
仲光
難波
奈良詣
(に)
錦木
錦戸
(ぬ)

(ね)
寝覚
(の)
野宮
野守

(は)
白楽天
羽衣
半蔀
橋弁慶
芭蕉
鉢木
花筐
班女

(ひ)
飛雲
檜垣
雲雀山
氷室
百万

(ふ)
富士太鼓
二人静

藤戸
船橋
船弁慶
(ほ)
放下僧
放生川
仏原
(ま)
巻絹
枕慈童
枕慈童(カ
松風
松虫
松山鏡
満仲
(み)
三井寺

通盛
水無月祓
身延
三輪
(む)
六浦
室君
(め)
和布刈
(も)
望月
求塚
紅葉狩
盛久
(や)
屋島
八島
山姥
(ゆ)
夕顔
遊行柳
弓八幡
熊野
湯谷
(よ)
夜討曽我
楊貴妃
養老
吉野静
吉野天人
頼政
弱法師

(ら)

羅生門
(り)
龍虎
輪蔵
(ろ)
籠太鼓